瞬時電圧低下補償装置の最新技術動向 −電気二重層コンデンサを用いた瞬時電圧低下(瞬低)補償装置−

1.まえがき
瞬時電圧低下補償装置

 情報化社会の進展により、コンピュータやコンピュータによって制御される機器の利用が急増している。そのため、停電はもちろんのこと、停電しないまでも一時的に電圧が低下する瞬時電圧低下(以下、瞬低と称す)が発生した場合、影響を受ける機器の種類とその範囲は増大する傾向にある。
 瞬低とは,文字どおり「瞬時的に電圧が低下する」現象であり、その主な原因は落雷・風雪等により送電線事故が発生した際に、その事故を回避するための系統切り換えに要する極めて短時間(0.07秒〜2秒)だけ電圧が低下することに起因する。(電圧ディップ:voltage dips、米国では「Sag」と表される)
 系統切り換え時間をゼロにすることができないため、電力流通設備側の対策では完全に瞬低を防止することは困難である。したがって、電力品質的に瞬低を許容できない場合には、電力会社からの雷情報を活用して操業形態を変更するソフト面での対策や、無停電電源装置などハード面での対策など個々のニーズにあった対策が必要となる。
 ハード面での対策である瞬低対策装置には、蓄電部に鉛蓄電池やリチウム電池などの二次電池を用いた無停電電源装置(以下、UPSと呼ぶ)が主流となっている。UPSの補償時間は数分〜数十分と短時間停電も補償範囲としているが、瞬低のみを補償対象として補償時間を短時間とすることで、設置コストおよびスペースを低減した瞬時電圧低下補償装置の需要が増えつつある。

2.電気二重層コンデンサを採用
 
Model for Electric Double Layer Capacitor

 近年、環境配慮の観点から、鉛フリー化の社会的要求が高まりつつある中、鉛蓄電池やリチウム電池に代わる蓄電素子として、瞬時電圧低下補償装置に必要な瞬時の充放電特性に優れ、充放電による劣化が少ない電気二重層コンデンサが有望視されている。
 当社では、かねてよりアルミ電解コンデンサの製造技術を活用した電気二重層コンデンサ(商品名:EVerCAP®)の製造を行ってきた。
 電気二重層コンデンサの構造は、捲回型(電極とセパレータを交互に重ねて巻き込んだもの)と積層型(電極とセパレータを交互に積み重ねたもの)に大別できるが、当社では生産性が高く、低コストで品質の安定化が期待できる捲回型を主に生産している。
 当社の瞬時電圧低下補償装置の蓄電部には、エネルギー効率を高めるために従来の製品に比べ低インピーダンス化を図った捲回型電気二重層コンデンサを採用している。

電気ニ重層コンデンサ“EVerCAP®
3.瞬時電圧低下補償装置の動向
瞬時電圧低下補償装置は、回路構成により、製品構成が多岐に及ぶ。
主なものとして、
(1) 常時インバータ給電方式
現在、UPSの回路方式として広く用いられている回路構成である。
インバータによって負荷に常時給電し、通常運転時はコンバータから、瞬低が発生した場合には蓄電部から負荷電力を供給する。性能は申し分ないが、回路構成の面からコンバータとインバータの常時運転による電力ロスが発生し、ランニングコストが大きい。
(2) 常時商用給電方式
高速スイッチを持った常時商用給電回路とこれに並列接続された双方向コンバータを組み合わせた回路構成である。
常時インバータ給電方式でのランニングコストを改善するため、通常時は常時商用給電回路を介して系統入力を直接負荷に給電し、瞬低が発生した場合には、高速スイッチにより系統を切り離し、双方向コンバータからの給電に切り換える。
(3) 直列補償方式
系統とインバータを直列注入トランスによって結合した回路構成である。
常時は系統から負荷に給電し、瞬低が発生した場合、電圧が低下した量だけインバータから給電する。補償電圧範囲を電圧低下の小さい範囲に限定することで蓄電量を小さくできる。
(電圧低下量が大きい場合には、補償時間が短くなる。)
125℃対応耐振動構造品「UEシリーズ」品
(1) 開発コンセプト
 瞬時電圧低下補償装置の開発に際して、電源を構成する主要機器である蓄電部に、鉛フリーでかつ環境負荷が小さく自社製品でもある電気二重層コンデンサを用いることで、UPSに対し、環境面、メンテナンスコストにおいて一線を画することを開発コンセプトとした。
 これに伴い、ランニングコストにおいても従来のUPS方式(常時インバータ給電方式)に対し優位性を確立するため、回路構成は常時商用給電方式を採用した。
〔直列補償方式は、いわゆる電圧低下補償用途であり、実際の瞬低(瞬停)現象(電圧低下量と継続時間)に対する補償範囲が限定されることから採用していない。〕
(2) システムの構成
 開発したシステムは、低圧回路(200,400V級)用の瞬時電圧低下補償装置であり、当社がこれまでに培った系統連係などのインバータ制御技術を応用した双方向コンバータ、瞬時電圧低下補償装置用に電気二重層コンデンサをユニット構成した蓄電部、高速切り換えが可能な交流スイッチ回路、メンテナンス時に使用するバイパススイッチと、全体をデジタル制御により統制する制御部により構成される。
(3) 瞬時電圧低下補償装置の制御技術
 常時商用給電方式の瞬時電圧低下補償装置は、前述の通り、定常時は常時商用給電回路を介して直接系統給電すると同時に、双方向コンバータのコンバータ制御により電気二重層コンデンサへの充電を行う。
 充電時は、瞬時電圧低下補償装置自身が負荷要素となることから上位の設備負担を考慮して、(装置容量にもよるが)定格の5%〜30%程度で制御している。
 また、初期充電後は、ある一定の蓄電エネルギーを確保するため蓄電電圧を監視しながら断続的に充電制御を行う。このためコンバータ動作での稼働率は低く、一制御あたりの充電時間も数十秒と短いため、充電動作時における上位設備への過負荷は問題にならない。
 商用電圧が指定された閾値を下回る瞬低が発生した場合、瞬時に瞬低を検出し、交流スイッチを開放して電気二重層コンデンサを蓄電媒体とした電源の自立運転による給電に切り換え、双方向コンバータのインバータ制御により給電する。その際、直前の商用電圧の位相情報を継続して同期出力する。
 瞬時電圧低下補償装置の動作保証時間内に、商用電圧が指定された閾値を上回る復電を検出した場合には、インバータ給電を停止すると同時に交流スイッチを閉じ商用給電を再開する。その際、商用電圧とインバータ給電電圧との位相差が許容範囲(位相差=2〜3%以下)を超える場合には、インバータ給電電圧と、商用電圧との位相差が許容範囲内になるまで徐々に位相補正(変調)してから商用給電に切り換える必要がある。
この一連の瞬低補償動作においては、以下の基本性能が要求される。
1 無瞬断切り換え
商用電圧の瞬低発生から、インバータ給電への切り換え時間は、すべての機器(特に電子機器)の動作継続のために2msec以下の応答性能が要求される。
2 同期制御
瞬低時および復電時の切り換えにおいて、負荷へ供給される電圧の位相変化を小さくする必要がある。よって、制御部にPLL(周波数調節回路)を設け、高精度の応答性、追従性を確立した。これにより、位相差最大条件である180°位相差に対しても、200msec以下での位相補正が可能となり、繰り返し瞬低への対応を可能にした。
瞬時電圧低下補償時の波形例
5.検証

 瞬時電圧低下補償装置の試作機を製作し、北陸電力株式会社と共同研究開発にて評価試験を行った。
 評価試験においては北陸電力株式会社所有の瞬低発生装置を用いて、JEC−2433(無停電電源システム)はもちろんのこと、IEC61000−4シリーズの瞬時電圧低下に関する各種試験項目の他、実際に発生した瞬低条件や短時間の繰り返し瞬低について検証し、動作の妥当性を確認している。また、本試験の実施後、北陸地方においてフィールド試験を実施し、夏期雷をはじめ冬期雷による瞬低はもちろんのこと、その他の天災(能登地方における地震)に対しても十分な補償性能を検証した。

6.まとめ

 これまでの評価試験により、電気二重層コンデンサ型瞬時電圧低下補償装置の製品化を完了し、2007年4月より販売を開始した。
 製品化に際しては、株式会社関電工との共同研究開発により、幅広いネットワークと経験によるユーザー要求を製品開発に採り入れ、分散設置による効率的かつ効果的な瞬低対策装置として、設置費用を含め総合的に、小型・ローコストの製品を開発した。双方向コンバータおよび蓄電部を自社製作することで、構造の合理化により装置の小型・軽量化を実現し、同一仕様品においては業界最小・最軽量クラスのスペックを実現した。

 なお、本製品は、2007年電設工業展の製品コンクール(株式会社関電工と共同出展)において、「経済産業大臣賞」を受賞するなど好評価をいただいており、本格的な市場参入を目指す。


ニチコン草津株式会社 技術部 技術一課 原田 茂
2007年7月2日付 電波新聞掲載
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