「導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの最新技術動向」

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ
チップ形大容量品「CGシリーズ」(写真手前)
リード線形大容量品「LGシリーズ」
 パーソナルコンピュータが各家庭に一台以上所有されていることは常識となり、ブルーレイディスクやHD-DVD、薄型テレビ、高性能家庭用ゲーム機など、近年のデジタル機器の一般家庭への普及スピードとその高性能化には目を見張るものがある。デジタル機器の高性能化により、機器内部では高付加価値機能を有する周辺回路が増加し、これらを処理するCPU(中央演算ユニット)にはより大きな負荷がかかるようになった。
 CPUでは電力消費量の変化による電圧変動を防ぐため、電源からの電力供給を補完する回路によって動作の安定化を図っている。CPUの高速化、高機能化による動作時の電力消費量の増大に伴い、その電圧変動は大きなものとなり、また一方で電力消費量の増大を抑えるためにCPUの動作電圧を低電圧化したことで、信号に対する電圧変動の影響が顕著になっている。
 このような電圧変動を効果的に防ぐために、瞬時に大きな電力の補完を可能とするコンデンサが求められたことから、コンデンサには優れた高周波特性や、小形で大容量、かつ低ESR(等価直列抵抗)といった特性が必要となった。これらは従来のアルミ電解コンデンサでは対応が難しいため、電解液の替わりに導電性高分子を使用した導電性高分子アルミ固体電解コンデンサが開発された。現在はデジタル機器のみならず、産業機器、自動車関連機器など、様々な機器へと用途が広がっている。

図-1:アルミ電解コンデンサの素子構造
図-2:アルミ電解コンデンサの構成を示す概念図
 アルミ電解コンデンサの素子構造及び概念図を図-1、図-2に示す。陽極アルミ箔、陰極アルミ箔の間にセパレータ紙を介して巻き取った素子に陰極材料を含浸して保持させた構造であり、この陰極材料に導電性高分子を用いたものが巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサである。陽極箔表面に形成された誘電体酸化皮膜からの電極の引出しは、陰極材料が担うこととなり、この真の陰極として機能する陰極材料は、アルミ電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼす。
 アルミ電解コンデンサに使用される陰極材料を表-1に示す。従来のアルミ電解コンデンサでは溶媒に電解質や添加剤を加えた電解液を陰極材料として用いている。電解液ではイオンが電荷の移動を担っているため、イオンの移動に伴った抵抗が生じてしまう。温度特性においても、電解液の電導度が溶液の物性により変化するため、低温から高温におけるインピーダンスの変化が大きい。
 一方、導電性高分子のような固体陰極材料では電導機構は電子電導なため、その電導度は電解液に比べて飛躍的に高くなる。例えば、当社がラインアップしている巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ超低ESR品「LEシリーズ」は、100kHzにおけるESR値が5mΩ(製品サイズ:φ 8×9mmL)である。
 固体陰極材料としては、二酸化マンガン、TCNQ錯塩、導電性高分子(PPyやPEDOT)等がある。導電性高分子は、電解液や二酸化マンガン、TCNQ錯体に比べて電導度が高く、融点も300℃から350℃と高温なことから、導電性、耐熱性共に優れた陰極材料として使用されている。また、コンデンサ使用温度範囲内で熱的に安定なため、電導度の温度依存性が小さく、広い温度領域で安定した電気特性が得られる。長期信頼性についても、固体電解質を使用していることにより特性変化が小さく安定性に優れている。
表-1:陰極材料の種類と電導度
陰極材料 電導機構 電導度(S/cm) コンデンサ素子への充填方法 特長及び欠点
電解液 イオン電導 10-3〜10-2 電解液を含浸。 電導度が低い
耐熱性が低い
低温特性が劣る
自己修復能が高い
ハンダ耐熱性が劣る
沸点:100〜200℃
二酸化マンガン
(β-MnO2)
電子電導 10-1〜10 硝酸マンガン水溶液を含浸し、
その後200〜300℃で熱分解する。
電導度が低い
誘電体が損傷し易い
燃焼性が高い
α相転移:約500℃
有機半導体
(TCNQ錯塩)
電子電導 4〜5 TCNQ錯塩を加熱溶融して含浸し、
その後冷却固化させる。
電導度改善
耐熱性改善
低温特性改善
ハンダ耐熱性が劣る
融点:約250℃
導電性高分子
(PPy,PEDOT)
電子電導 10〜102 モノマーを重合させて
高分子を形成する。
電導度良好
耐熱性良好
低温特性良好
ハンダ耐熱性良好
分解:300℃超
 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサには、電極箔を巻き取った巻回形の他、電極箔を積み重ねた積層形がある。巻回形は積層形に比べて単位基板占有面積当たりの容量が大きい、耐高電圧化が可能といった特長を持つ。積層形は小形化が可能であり、電極の引き出し構造の違いからインピーダンスが低いといった特長を持つ。その他、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサを応用したデバイスに、高周波デカップリングデバイスがある。大容量かつ広い周波数領域で低インピーダンスといった特長を持ち、CPU近傍に配置し瞬時の電力消費量変化に伴う電圧変動を抑制でき、複数個のMLCC(積層セラミックコンデンサ)や電解コンデンサを当該デバイス一つに置き換えることも可能である。

図-3:チップ形標準品と大容量品の容量比較
図-4:リード線形標準品と大容量品の容量比較
 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、MLCCやタンタル固体電解コンデンサと比較した際の最も大きな特長として、大容量であり、単位基板占有面積当たりの容量が大きいことが挙げられる。
 当社では小形化、大容量化の要求に応えるべく、この特長を最大限に活かした業界最大容量の巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「CGシリーズ(チップ形)」、「LGシリーズ(リード線形)」をラインアップしている。巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは素子構造が従来のアルミ電解コンデンサと同様なため、アルミ電解コンデンサの技術を活かすことが可能である。
 「CG、LGシリーズ」は、当社がこれまで培ってきたアルミ電解コンデンサ技術に加え、素子設計と導電性高分子形成プロセスの最適化を行うことにより、当社標準品に比べて最大約3倍の大容量化を実現している。具体的な例を示す。当社チップ形標準品「CFシリーズ」6.3V-680μF(φ 10×10mmL)と同サイズで比較した場合、「CGシリーズ」では6.3V-1800μFと約2.6倍の大容量化を実現した(図-3)。リード線形標準品「LFシリーズ」4V-820μF(φ 10×13mmL)と同サイズで比較した場合、「LGシリーズ」では4V-2700μFと約3.3倍の大容量化となっている(図-4)。これまで複数個を使用して必要な容量を満たしていた回路を、大容量品に置き換えることで部品点数の削減ができ、回路基板の省スペース化、コストの低減を図ることが可能となる。
 また、同容量で比べた場合、例えばチップ形の6.3V-330μFでは、「CG/CFシリーズ」は体積比-70%、基板占有面積-57%(φ 6.3×6mmL/φ 10×8mmL)の小形化となり、リード線形の16V-470μFでは、「LG/LFシリーズ」は体積比-40%、基板占有面積-36%(φ 8×12mmL/φ 10×13mmL)の小形化となるため、回路基板の省スペース化を図ることができる。
 大幅な大容量化を実現したCGシリーズ、LGシリーズは産業機器メーカーからも好評を得ており、制御回路用として多用されている。

 現代社会における情報量の急速な増加によるデジタル機器の高性能化に伴い、コンデンサにはより優れた電気特性が要求され、同時に機器の小形化、薄形化、高品質化に伴う一段の高信頼化も求められてきている。機器の小形化の進展により搭載部品の発熱による機器内部の温度上昇が生じるため、高温度環境下にも耐えうるコンデンサが必要となっている。また、機器の長期保証を満たすためにさらなる長寿命化も求められている。
 当社はこれら要求に応えるため、さらなる低ESR化、耐高温度といった高信頼化、定格電圧の高耐電圧化に向けた開発を進めている。

ニチコン株式会社 長野工場 開発室 中嶋 雄一
2008年1月24日付 電波新聞掲載
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