「インバータ用アルミ電解コンデンサの最新技術動向」

 インバータとは、周波数と電圧を制御することによって、モータの回転を高度に制御する可変速装置であり、建設・土木機械、食品加工・搬送機械、ファン・ポンプ等の多くの産業機器に使われている。また、家電用製品にも省エネルギー対策目的として多くの機器がインバータ化されている。アルミ電解コンデンサは整流器とインバータ部の間(平滑回路部)に接続され、整流器から出力される直流に含まれる変動分の平滑を目的に使用される。インバータ技術がもたらした高性能(高機能・快適性)高効率(省エネ)は、数十年の歴史の中で、応用範囲は今尚拡大の一途を辿っている。
 1997年に開催された第3回の気候変動枠組条約締約国会議において「京都議定書」として地球温暖化対策が採択された。1990年を基準とした日本の目標削減率は6%であるが、既に相当の省エネルギー化を図り二酸化炭素の排出量削減を実現していた日本に対しても温暖化対策に停滞は許されず、さらに数々の施策が打たれている。
 このような環境下にあって、アルミ電解コンデンサも機器の省エネルギー化に貢献している。本稿ではインバータ用途を主体とした最新技術動向について紹介する。
 なお、政府主導で平成2年から始まった「省エネ大賞」(最も権威ある賞が経済産業大臣賞)を受賞したエアコンにも当社製品が搭載されている。
1.モーター制御用アルミ電解コンデンサの材料開発のポイント
〔図1〕 アルミ電解コンデンサの原理
  アルミ電解コンデンサは、図1に示す基本原理で成り立っている。陽極箔はエッチングにより表面積を拡大した上で耐電圧に応じた誘電体皮膜を形成。セパレータに含浸した電解液によるイオン伝導で、誘電体皮膜に蓄えた電荷を陰極箔に導く。
 この原理から明らかな様に、アルミ電解コンデンサの電気性能を決定づけるコンデンサ素子の開発ポイントは[1]電極表面積の拡大 [2]誘電体皮膜 [3]セパレータ [4]電解液 の4つに大別される。
 電極箔表面積の拡大と誘電体皮膜開発は、静電容量を大きくするために箔表面積の高倍率化と高容量化を目指し、セパレータは、電極箔の収容面積を高めるために極力薄く低密度、高耐電圧を目指し、電解液開発は高許容リプル、長寿命化のために低比抵抗に加え一部ではサージ電圧対応としてESR(等価直列抵抗)が増加する低温特性の改善も要求項目に加わることもあるが、やはり長期安定性の向上がベースとして目指している特性である。何れもアルミ電解コンデンサの小形・大容量・長寿命化に直結する技術であることから、様々な分野のアルミ電解コンデンサに共通の開発ポイントでもある。以下では、資源エネルギー庁出所(図2)の家庭で一番電力を消費するエアコン(インバータエアコン)に使われる当社製品のこれまで提案してきた開発ポイントと、温室効果ガスインベントリオフィス出典(図3)の二酸化炭素排出量で電気についで多いガソリンが主に使用される自動車で注目されるHEVのインバータシステムの取り組み内容について紹介する。また、FAを目的として工作機械・NC・産業用ロボット・サーボモータは高効率化を目的として生み出され、今尚進化し続けているが、モータ制御をする全てのインバータ化が推し進められる中での代表として汎用インバータ用新製品についてもこれまでの経緯と開発ポイントを含めて紹介する。
〔図2〕 家庭における消費電力ウェイトの比較 〔図3〕 家庭からの二酸化炭素排気量-燃料種別内訳-
2.インバータエアコン用アルミ電解コンデンサの開発状況
 
 1980年代、初めて倍電圧回路方式のインバータエアコンが開発された。当社のアルミ電解コンデンサは構成部品のひとつとして寄与し今日に至っている。これは市場要求に順応する開発品を常に提案してきた結果であり、インバータエアコンの市場動向とコンデンサ動向の実績は図4の時系列で示すとおりである。
 この中で、一般のアルミ電解コンデンサの開発には見られない特徴ある開発品が何点かあるが、特に、業界で当社のみ採用されている倍電圧用65℃保証品について紹介する。VA品と位置付け開発したこの製品は、過去の開発の流れに逆行している(従来の85℃保証に対して、保証温度を下げる)製品である。アルミ電解コンデンサの寿命予測はアレニウスの法則で知られる10℃2倍則(雰囲気温度が10℃高くなると寿命は半減する)が適用されることが広く知られている。従来、インバータエアコン用コンデンサは85℃品が多く使用されていたが、長寿命65℃保証(但し、リプル温度上昇(△Tは20℃まで許容))とすることで、従来品より皮膜損失の低減、セパレータ及び電解液の低比抵抗化を実現しており、1998年の省エネ法改正に対する小形ルームエアコン2.2KWタイプを中心に多くの顧客で採用いただき、エアコンの特性改善に寄与した開発品と位置付けできる。 
 当社のアルミ電解コンデンサは、インバータエアコンの登場と共に市場投入し、20年以上経過した現在に至るまで、常に高性能化・高効率化に向けた新製品を業界に先駆け提供している。
この間、リプル電流の吸収に必要なコンデンサの静電容量は、リプル電流の大きい倍電圧回路用で30%、平滑回路用に至っては50%の低減を可能にしている。
 これらの静電容量低減は、インバータ技術の進化と想定される負荷等による評価やシミュレーション解析をベースとするも、コンデンサを使いこなしていただいた顧客の技術力にも負うところが大きい。
 現在は、COP規制から移行したAPF規制に対する高性能化・高効率化に対して、コンデンサの低ESR化が求められている。
しかし、小形化の要求も強く、単に電極箔の高倍率化による小形化では逆に電極箔抵抗が大きくなり特性悪化となる。提案品は、機器の使用条件まで踏み込んだ中で、セパレータおよび電解液によるESR特性の改善が開発ポイントとなった。
 何れにしても、ESR特性を含めた特性の良いコンデンサの開発が不可欠であり、今後も市場に寄与出来る製品開発に取り組む。
〔図4〕 市場動向とインバータエアコン用アルミ電解コンデンサの取り組み
3.自動車用アルミ電解コンデンサの最新技術動向
〔図5〕 パラレルハイブリッド方式
〔図6〕 シリーズ・パラレルハイブリッド方式
〔図7〕 従来構造と高耐振性能保証の構造
  深刻化する環境問題への対応と、最近の原油価格の高騰を背景として、自動車のHEV化、EV・燃料電池車といった次世代自動車にも注目が集まっている。
現在量産されているHEVの主たる方式は、[1]1つのモータ(兼発電機)を用いるパラレル方式(図5)、[2]2つのモータ(兼発電機)を用いるシリーズ・パラレル方式(図6)である。後者の方が、インバータに搭載するコンデンサの静電容量は比較的大きい。また、主にHEVのモータ出力によっても[1]ストロングHEV [2]マイルドHEV [3]マイクロHEV に大別される。高出力なHEV方式ほど、インバータの回路電圧は高くなる。
 当社はアルミ電解コンデンサおよびフィルムコンデンサにおいてHEVの車載実績を有するが現時点で、高出力モータを駆動するストロングHEVにはフィルムコンデンサが、マイルドおよびマイクロHEVにはアルミ電解コンデンサで多くの市場実績を持つ。
 アルミ電解コンデンサは、最も小形で高容量のインバータ平滑用コンデンサである。特にマイルドHEV方式において多くの車種に400Vまたは450V定格のアルミ電解コンデンサが採用され、EVおよび燃料電池車についても現在各社の試作車両に搭載、開発が進められている。当社の強みは、汎用インバータ用途も含めて、基礎技術の上に用途別の要素技術を確立している点にあり、例えば、HEV用インバータが自動車のトランスミッションに直接搭載され、コンデンサに激しい振動が加わることに対しても図7の如く、20Gの高耐振性能の保証を可能とする技術確立を果たしている。また、小形化などを目的に出来る限り小さな平滑容量で設計される場合に対しても、インバータエアコンの力率改善用として培った非結晶皮膜の高リプル対応電極箔技術などを提案できることも大きな強みである。
 HEVのさらなる燃費向上のために、また普及への課題である低コスト化に向けてはシステムの高効率化と小形化が必要である。インバータにおいてはパワーデバイスの進化がカギを握る。その切り札として今最も注目されているのが、シリコンカーバイト半導体である。シリコン半導体と比較して、耐電圧性能が高く、高温に耐え、電力損失が少ない特長を有する。
この半導体を活用すると、同じ出力で使用した場合に損失熱が小さくなるため、冷却も簡素化されインバータの大幅な高効率化と小形化が可能となる。この場合アルミ電解コンデンサは、部品実装密度が高くなることに伴う高温度化への対応と小形化が求められてくる。当社では150℃までを想定したアルミ電解コンデンサの材料開発とコンデンサを他部品と共にモジュール化する提案も念頭に開発を進めている。
4.汎用インバータ製品の今後の開発ポイント
〔1〕 小形化
 整流器とインバータ部の間(平滑回路部)に接続されるアルミ電解コンデンサは、構成部品の中では大きな体積比率を占めており、小形化が大きな開発ポイントである。小形化では特に他の部材との兼ね合いから低背化を目的に横置品が採用される場合もある。
 低背化では、電極箔の高倍率化やセパレータの薄手化対応のみではなく、コンデンサ素子の収納率向上が重要である。

〔2〕 小形化の問題点
 リプル電圧(△V)の上昇が、アルミ電解コンデンサを局部的に劣化させることがわかってきている。回転機構を有する家電機器や産業機器など電圧が大きく変動する回路では、アルミ電解コンデンサは充放電を繰り返すが、
(1)  機器の高速化・高性能化による急峻な電圧変動
(2)  アルミ電解コンデンサ用電極箔の高倍率化による小形化
により、充放電(実影響は放電時)によって電極箔が局部的にストレスを受け、部分的な耐圧低下を起こし、最終的には短絡となる不具合に発展することがある。

〔3〕 小形化の問題点解消
 頻繁に起こる回生電圧などでアルミ電解コンデンサに充放電が繰り返されると、コンデンサ素子内部の陰極引き出しリードタブ上に皮膜生成反応が起こり、対向する陽極箔の耐電圧を低下させる現象が現れる。この陰極引き出しリードタブを別の電極箔で保護することで、このような耐圧劣化の要因となる皮膜生成反応を解消した。

〔4〕 高耐電圧化
 汎用インバータは、AC200V三相入力モータの場合、必要なアルミ電解コンデンサの定格電圧は400V、AC400V三相入力モータの場合、定格電圧400V品のシリーズ接続が一般的となっている。シリーズ接続では、ブリーダ抵抗による製品間の電圧バランスをとる必要がある。また、接続数が増えるほど負荷バランスは崩れやすくなる。アルミ電解コンデンサの定格電圧は、実際の入力電圧や変動及び回生電圧に加えてディレーティング率等より選定されるが、シリーズ接続しているアルミ電解コンデンサを単器で使用することが出来れば、ブリーダ抵抗の削減や電圧バランスの考慮が不要な分だけ定格電圧を下げることが可能となる。当社では、現在750V(85℃)定格までラインアップしているが、更なる特性改善で顧客満足度向上を目指した開発に取り組んでいる。汎用インバータを含め用途拡大と共に小形化が進んでいる。特に2直列以上および多並列接続して容量アップを図る回路では製品単体の小形化によるメリットは大きい。当社では従来のNXシリーズ(図8)の1ランク小形化を達成したNKシリーズを開発した。リプル電流での選定や大容量品での選定の何れでも小形化へ貢献出来る製品である。
〔図8〕 高圧用小形化品の開発 (85℃ 5000時間品)
5.環境対応
 EU(欧州連合)でRoHS指令が施行されてから早や2年が経過しようとしている。当社の大形アルミ電解コンデンサは、早期に規制対象6物質を排除した環境対応品の製品化が完了し、既に2001年からは顧客要求に応えた環境対応品の市場投入を開始している。現在、ハロゲンフリーへの対応も進めている。長年被覆材として採用してきたポリ塩化ビニルとの決別が不可欠となる。現状φ50ミリ品以上の大サイズに適用する新たな被覆部材が必要となるが、早期解決を目指し取り組み中である。
6.まとめ

 アルミ電解コンデンサは小形で大容量であることが大きな特長のひとつであり、環境対応も含め省エネルギー化のインバータ製品の構成部品としても貢献している。小形化スピードは電子部品の中では決して速くはない。しかし、機器の高性能化や顧客満足度の向上にはインバータエアコン用製品の変遷の如く、適用するコンデンサの定格まで含めると大きなリデュースの成果を着実に果たしてきたものと自負する。これからも様々な制約の中、市場の求める製品をコストも意識した中で開発していく。特に高耐電圧品は、今後も電極箔・電解液の特性改善と共に、信頼性向上を目指し開発していく。


ニチコン株式会社 長野工場 技術部 宿澤 三男
2008年7月1日付 電波新聞掲載
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