近年、IoT、ビッグデータ、人工知能、クラウドを活用した新たな製品やサービスの提供が増えてきており、光や熱、振動、電波などのエネルギーを電気に変える環境発電システム(エナジーハーベスティング)が拡大してきている。更には、人が運転操作を行わなくとも走行できる自動運転やADAS(Advanced Driver Assistance System)などのカーエレクトロニクスが進化しており、これまでの蓄電デバイスにない性能が求められている。

電気二重層コンデンサは、パワー密度が高いがエネルギー密度が低いため、より長い時間のエネルギー放電ができるものが求められるが、一方、一般的なリチウムイオン二次電池はエネルギー密度は高いがパワー密度が低いため、より大きな電流で充放電できるものが求められている。東芝インフラシステムズ株式会社(以下、東芝)の二次電池SCiBTMがその要件にマッチするものであり、リチウムイオン電池のウィークポイントである安全性、サイクル耐久性、低温下での使用、急速充放電性能などの課題を解決した技術であることから、東芝より技術供与を受け、小形サイズに特化し、繰り返し充放電が可能でパワー密度とエネルギー密度を両立した小形リチウムイオン二次電池を開発した。

【図1 主な蓄電デバイスのラゴーンプロット】

【図1 主な蓄電デバイスのラゴーンプロット】

基本技術は東芝二次電池SCiBTM技術によるが、開発品の特長を以下に述べる。開発品は、負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用することにより、高レート※(最大20C)での急速充放電性能を有し、電気二重層コンデンサに迫る高入出力密度を実現した。また、充放電10Cレートで18,000回以上のサイクルが可能な耐久性と、-30℃でも動作可能な低温特性を保持している。さらに短絡や劣化の原因となるリチウム金属の析出が起こりにくいことで、発火発煙の危険性が極めて低い、安全な小形リチウムイオン二次電池である。

<構造および特長>
一般的に、リチウムイオン二次電池の構造は円筒形、角形、ボタン形に大別される。当社開発の小形リチウムイオン二次電池は円筒形で、当社電気二重層コンデンサの基本構造とおおよそ同じ構造をベースとし、正極、負極、セパレータ、電解液、それらを収納する外装材から構成される。
正極と負極は、薄い金属箔に正極材と負極材をそれぞれ塗布したものであり、負極の主材料であるLTOは、多くのリチウムイオン二次電池に採用されているカーボン系材料より、熱的に安定した不燃材料である。LTO負極仕様では、高温域まで電解液との反応は見られないため、負極材と電解液との反応が引き金となって熱暴走が生じる可能性が低い。また、LTOはリチウムイオンが放出された状態では、絶縁に近い状態に変化する性質があり、部分的に短絡反応が起こっても電池全体に広がらず、短絡箇所のLTO表面は絶縁化して放電反応の進行が抑えられる。このため、内部短絡を起こしても電池の発熱反応は非常に緩やかになる特長がある。

<サイクル特性>
電池容量を1時間で充電または放電させるときの電流レートを1Cと定義している。一般的なリチウムイオン二次電池のサイクル特性は、1Cレート数百〜数千サイクルで80%程度の容量維持率と言われているのに対し、当社開発の小形リチウムイオン二次電池は、10倍の 10C(1/10時間の充電または放電)レートでの充放電サイクル試験を18,000回実施して85%の容量を維持しており、高レートでのサイクル寿命に優れたデバイスである。(18,000サイクルは一日5回充電を約10年間実施する回数に相当)  

【図2 充放電サイクル特性】

【図2 充放電サイクル特性】

■<レート特性>
開発品は最大20Cでの急速充放電が対応可能であり、20Cで充電した場合には、3分間で約80%の急速充電が可能であることから、短時間で充電する用途に最適である。また、20Cで放電した場合には、3分間で充電した容量の約95%を放電可能であり、ハイパワーが必要な用途に適したデバイスである。開発品のレート特性を図3aおよび3bに示す。

【図3a 充電特性】

【図3a 充電特性】

【図3b 放電特性】

【図3b 放電特性】

<低温特性>
−30℃の低温環境下においても充電、放電が可能であり、低温特性に優れている。低温環境下でLTO負極上にリチウムが析出しないため安全であり、充放電を繰り返しても容量劣化など電池性能へのダメージは起こらず低温環境下での耐久性にも優れている。

【図4 低温特性】

【図4 低温特性】

<安全性>
当社の小形リチウムイオン二次電池に対し、表1の安全性試験を実施し、いずれも破裂・発火が無いことを確認した。LTO負極はSOC範囲(0〜100%)で1.5V以上の電位を持ち、原理的にリチウム析出は起こらない。また過充電領域でもLTO負極は約0.5V以上の電位を確保し、リチウム析出は起きないことを確認しており、万が一、過充電が起こっても破裂・発火のメカニズムが無いのが特長の一つとなっている。

試験項目 試験内容 結果
圧壊 満充電後、半円状圧子(φ10mm)で円筒型電池の縦軸が圧子と垂直になるように入れ、試験前の50%まで押し潰す。 破裂・発火無し
釘刺し 満充電後、φ3mmの釘を電池の中央部で垂直に速度5.5mm/secで貫通させ放置する。 破裂・発火無し
Blunt Nail試験 満充電とした電池にBlunt Nailを用いて、0.1mm/sの速度で電池を加圧する。電池電圧が0.5V以上低下した時点で短絡とみなし、釘の降下を止める。 破裂・発火無し
外部短絡 電池の正負極端子を1mω程度の外部抵抗に接続し短絡させる。 破裂・発火無し
過充電 10V以上で使用できる電源を用いて、電池を放電状態から1C(または2〜10C)にて定格容量の250%まで通電する。 破裂・発火無し
強制放電 放電状態(SOC0%)から、電池を1Cにて90分間、逆充電を行う。 破裂・発火無し

【表1 安全性試験結果】

<今後への期待>
あらゆるモノがネットワークにつながるIoT社会を実現するには、あらゆるモノに電源が必要となるが、電源配線や電池交換が難しい場所もある。そこで、光、温度、振動、電波などのエネルギーを電気に変換するエナジーハーベスティング技術と、そのエネルギーをたくわえ、放出するサイクルを頻度高く繰り返し行うことができる二次電池が望まれている。
例えば、当社が開発した小形リチウムイオン二次電池の特長を活かし、電源ICとの組合せで長時間の環境センサーを駆動させ、温度、湿度、照度などのデータのモニタリングが可能となる。 また、最大20C対応の高レート特性を活かし、昇降圧充電ICとの組合せで短時間での急速充電が可能になる。
更には、短時間の断続的なパルス放電では約100C対応の可能性を見いだしており、長期間のサイクル特性、急速充放電特性との組合せで更なる用途拡大を見込み、安全性の特長と合わせて、ウェアラブルなどの身近な機器への応用も進むものと期待している。

以上

※高レートの急速充放電性能:
電池容量を1時間で充放電させるときの電流レートを1Cと定義されている。1Cよりも大きなレートで充放電できることを高レートの急速充放電性能としている。

*1:安全性に優れた新型二次電池SCiB :小杉、稲垣、高見
*2:耐久性と安全性に優れたハイブリッド自動車用新型二次電池SCiB:高見、小杉、本多
*3:HEV用 新型二次電池SCiB 電池パック:小杉、高見、本多
*4:IoTの電源−電池の問題点:竹内啓治


ニチコン株式会社
2018年7月2日電波新聞掲載

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